2021年5月時点、イスラエルや英国では新型コロナウイルスワクチンの接種が十分に進み、ポストコロナの世界へ足を踏み出そうとしています。対して日本国内は大阪・東京などの都市圏を中心に緊急事態宣言が発令中です。スパイクタンパク質にN501Y・E484Kの変異を持つ、通称「インド株」と呼ばれる変異株の感染が急激に広がり、40代、50代でも重症化しやすいとされています。
重症化した患者さんは肺組織などにに大きなダメージを負っていることが多いのですが、発熱やその他入院や特別な治療を要さない程度の軽微な症状があった人でも長引く症状に悩まされている例が世界的に認められています。今回はNature Medicineに報告された、いわゆる「コロナ後遺症」についての知見を共有します。
世界で最も早くワクチン接種を進め、「コロナ後の世界」へ足を踏み出したイスラエルにおけるワクチンの有効性を示した論文はこちらです。
[word_balloon id=”1″ size=”M” position=”L” name_position=”under_avatar” radius=”true” balloon=”talk” balloon_shadow=”true”]当院でもコロナの後遺症の診療に取り組みたいと思います。まだ確立された診療ガイドラインなどはありませんが、常に新しい知見を得ていくことが大事ですね。[/word_balloon]
[word_balloon id=”2″ size=”M” position=”R” name_position=”under_avatar” radius=”true” balloon=”talk” balloon_shadow=”true”]後遺症にどんな症状があるのか、どういう人に起こりやすいのか気になります。[/word_balloon]
まず一つ目の論文の紹介です。後遺症に見られる症状がまとまっています。
"Post-acute COVID-19 syndrome" Nature Medicine 2021
(論文へのリンクは→こちら)
後遺症にはどんなものがあるの?
COVID-19の急性期以降2-3週間を経過すると複製能力のあるウイルスが分離されなくなることから、「急性期後」なるものはCOVID-19の急性症状の発症から3~4週間以降の症状の持続や後遺症の発症を含むものとされます。この論文では「急性期後」を「新型コロナウイルス感染による症状の持続および遅発性もしくは長期的な合併症が発症から4週間を超えた状態」と定義しています(以下に論文の図を和訳して掲載)。
最近の文献によれば、さらに2つのカテゴリーに分けられます。
(1)急性COVID-19から4-12週間後に現れる症状や異常を含む、亜急性または進行中の症候性COVID-19
(2)急性COVID-19の発症から12週間を超えて持続または存在する症状や異常で、慢性またはCOVID-19後症候群
ここでは、急性COVID-19後の疫学と臓器別の後遺症を要約し、これらの患者を包括的に治療するための注意点を記載していきます。
肺の症状
呼吸困難、運動能力の低下、低酸素症が一般的に持続する症状・徴候です。COVID-19生存者を追跡してみると、肺で酸素を取り込む力が低下したり、線維化といって肺が広がりにくくなって息が吸いにくくなったりしていることがわかっています。
これらの評価にはパルスオキシメトリ、6分間歩行試験(6分間で歩ける距離を計測する)、肺機能検査(肺のガス交換能や肺活量などを測る)、CTスキャン、肺血管造影などを用います。
血液の症状
血栓塞栓症は、後方視的な研究(沢山の患者さんを振り返って、どんな症状などがあったか検証していくこと)において、COVID-19の後遺症としては5%未満であると言われています。一方新型コロナウイルスの感染による炎症反応が亢進した状態がどれほど持続するのかは不明です。
寝たきり、D-ダイマーという検査値が持続的に上昇している(正常値上限の2倍以上)、がんなどの高リスクの併存疾患がある患者では、よく検討した上で、血液をサラサラにする薬で長期間の血栓予防を行なっても良いです。
心血管系の症状
遷延する症状としては、動悸、呼吸困難、胸痛などがあり、長期的な後遺症としては、心代謝需要の増加、心筋の線維化や瘢痕化(心臓MRIでわかります)、不整脈、頻脈、自律神経障害などがあります。
急性感染症で心血管合併症が生じた患者さんや、心血管系の症状が持続している患者さんは、血液検査、心エコー、心電図などによる継続的なフォローが必要です。
精神神経系の症状
遷延する症状としては、疲労感、筋肉痛、頭痛、自律神経失調症、認知機能障害などが挙げられます。
COVID-19生存者の30-40%で、不安、抑うつ、睡眠障害、PTSDの症状が見られるとされています。
精神神経系の合併症が生じるメカニズムとしては、免疫調節の異常、炎症、微小血管の血栓症、薬剤の作用、感染による心理社会的影響など、多様なものが挙げられます。
腎臓の症状
COVID-19の急性期における急性腎障害は大多数の患者さんで軽快しますが、6ヵ月の追跡調査によるとeGFR(推算糸球体濾過量:血清クレアチニン値、年齢、性別から計算して得られるもので、腎臓の機能を反映します)の低下が報告されています。
COVAN(COVID-associated nephropathy, 新型コロナウイルス感染症関連腎症。崩壊性糸球体症)は、アフリカ系の人に見られる腎障害のうち主要なものである。(COVANについて最初の報告は→こちら)
COVID-19生存者で腎機能障害が持続する場合は、AKI生存者クリニックで早期に綿密なフォローアップを行うことが有効であると考えられる
内分泌系の症状
内分泌系というのは一般にホルモンの動きによる体の仕組みを指します。この後遺症としては、糖尿病が新たに発症したり、もともとの糖尿病が悪化したりすることや、亜急性甲状腺炎、骨が弱くなるなどが挙げられます。
特に2型糖尿病のリスクがないにも関わらず新たに糖尿病と診断された患者さん、視床下部-下垂体-副腎の仕組みに障害がでていると疑われる患者さん、甲状腺機能亢進症が疑われる患者さんは内分泌代謝内科の専門医に紹介すべきです。
消化器・肝臓の症状
COVID-19の患者さんでは、鼻咽腔ぬぐい液での検査が陰性であっても、糞便では長期にわたって陽性が持続することがあります。
また日和見菌(通常の免疫のある人には病原性を持たないが、抵抗力の落ちた人には病原性を発揮する菌)の増加や常在菌の減少など、腸内細菌叢を変化させる可能性もあると考えられています。
皮膚の症状
脱毛が主症状として挙げられていて、COVID-19の生存者のうち20%に見られるという報告もあります。
多系統炎症性症候群
21歳未満・発熱・炎症マーカーの上昇・多臓器症状・SARS-CoV-2の感染が証明済みで、他の診断が除外されている場合に本症と診断しますが、m一般的に、7歳以上の子供に発症し、アフリカ系、アフリカカリブ系、ヒスパニック系の人々に多く見られます。
心血管(例えば冠動脈瘤。この点は川崎病によく似ています。)および神経系(頭痛、脳症、脳卒中、痙攣)などの合併症を引き起こす可能性があります。
小児科学会からも診療の指針(→こちら)が出ております。
世界のデータまとめ
イタリア、イギリス、フランス、スペイン、中国から計8つの報告のまとめがあります。
COVID-19の急性期の後、症状残存が1-2種類の人が32-87%、3種類以上の人が55%でした。
・発熱:0.1-0.9%
・疲労感:34-55%
・関節痛:4-27%
・筋肉痛:2-19%
・呼吸困難:11-43%
・咳嗽:2-21%
・胸痛:5-21%
・動悸:9-10%
・不安/うつ:23%
・睡眠障害:24-30%
・PTSD:31%
・味覚/嗅覚障害:7-22%
・頭痛:1-17%
・下痢:0.5-10%
・脱毛:20-22%
・皮疹:3%
(詳細は→こちら)
概略としては以上になります
[word_balloon id=”1″ size=”M” position=”L” name_position=”under_avatar” radius=”true” balloon=”talk” balloon_shadow=”true”]多彩な症状が出現することがよく分かる報告でした。個々の患者さんに合わせて、より詳しい検査や治療を進めるべきかどうかを判断していくことが大切だと思います[/word_balloon]
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