我が国においても、全人口の約57%が1回目のワクチンを打ち終わり、2回目についても約46%が接種を完了しているそうです(2021年9月2日現在)。ニュースでは毎日ワクチンの話題が取り上げられ、視聴者の関心の高さが伺えます。感染拡大や万が一感染した場合の重症化を防ぐために、少しでも早く多くの人にワクチンが行き渡って欲しいと思っております。
ところで、ワクチンを打つ際にどうしても気がかりなのがいわゆる副作用ではないでしょうか。新型コロナウイルスに感染するのは怖い、人に移すのも怖い、でもワクチンは本当に安全なの?そう思っている方はかなり多くいらっしゃるのではないかと思います。
NEJMという雑誌にBNT162b2(COVID-19 mRNAワクチン)の安全性に関する記事が載っていました。NEJMは臨床医学において信頼できる、権威ある雑誌です。コロナウイルス関連の論文は無料で全文を読むことができるようになっており、非常に助かります(通常、医学論文はお金を払って読む仕組みになっているのです)。
Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting
August 25, 2021
DOI: 10.1056/NEJMoa2110475
イスラエルにおける全国調査で、ワクチンを接種した群とワクチンを接種していない群を比較したところ、ワクチン接種群では心筋炎やリンパ節腫脹などの有害事象リスク(副作用のリスクと考えてくださって結構です)を高めるというデータが出ています。
・心筋炎(リスク比 3.24;95%信頼区間(CI),1.55~12.44;リスク差 10万人あたり2.7イベント 95%CI,1.0~4.6)
・リンパ節腫脹(リスク比 2.43;95%CI,2.05~2.78;リスク差 10万人あたり78.4イベント 95%CI,64.1~89.3)
・虫垂炎(リスク比 1.40,95%CI,1.02~2.01,リスク差 10万人あたり5.0イベント 95%CI,0.3~9.9)
・帯状疱疹感染(リスク比 1.43,95%CI,1.20~1.73,リスク差,10万人あたり15.8イベント 95%CI,8.2~24.2)
これだけを読むとなんだか怖いですね。やっぱりワクチンを打たない方が良いんじゃないの?と思ってしまうのも無理はないかと思います。しかし、ワクチンを打つ本来の目的は感染を防ぐことは勿論、重症化を防ぐこともとても重要なのです。この点を検討するためには、新型コロナウイルスに感染した場合に非感染者と比較してどれくらい有害事象リスクが高まるかを知る必要があります。
新型コロナウイルスに感染した群と未感染の群を比較したところ、感染群では心筋炎、急性腎障害など、多くの有害事象のリスクが大幅に増加していました。
・心筋炎(リスク比 18.28;95%信頼区間,3.95~25.12;リスク差,10 万人あたり 11.0 イベント,95%信頼区間,5.6~15.8)
・急性腎障害(リスク比 14.83;95%信頼区間,9.24~28.75;リスク差,10万人あたり125.4イベント、95%CI、107.0~142.6)
・肺塞栓症(リスク比 12.14、95%CI、6.89~29.20、リスク差、10万人あたり61.7イベント、95%CI、48.5~75.4)
・頭蓋内出血(リスク比 6.89、95%CI、1.90~19.16、リスク差、10万人あたり7. 6イベント、95%CI、2.7~12.6)
・心膜炎(リスク比 5.39、95%CI、2.22~23.58、リスク差、10万人あたり10.9イベント、95%CI、4.9~16.9)
・心筋梗塞(リスク比 4.47、95%CI、2.47~9.95、リスク差、10万人あたり25.1イベント、95%CI、16.2~33.9)
・深部静脈血栓症(リスク比 3.78;95%CI、2.50~6.59;リスク差、10万人当たり43.0イベント;95%CI、29.9~56.6)
・不整脈(リスク比 3.83;95%CI、3.07~4.95;リスク差、10万人あたり166.1イベント;95%CI、139.6~193.2)
これらの有害事象を予防可能であることを考慮すれば、ワクチン接種はやはり強く推進していきたいところです。ただし本研究は観察研究であり、ランダム化比較試験に比べると信頼性が劣るなど、問題点もいくつかあるのは確かです。今後更なる研究が進み、ワクチンの安全性に関する情報が出てくることを期待したいですね。
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